８月11日

夜がこんなに長いなんて知らなかった。



目覚めたら５時ちょっと前。

もう５時になるのかあ。
いつもならとっくに仕事してる時間だな。

はだしのままベランダに出た。
もう夜は過ぎ去って、日が昇りはじめているのか、うっすら明るい。

ヤベエ、遅刻した！ って気分。


隣の人は起きてるみたい。
部屋の明かりがもれてる。



やれやれと引き返して、

上下黒ジャージのまま、昨日買ったセブンスターとウイダーインゼリーを持って、昨日の踊り場へ向かう。

踊り場でタバコに火をつけて、地上を見る。

そんなに高くない。
高所恐怖症のあたしでも、十分飛べる、そんな気になる。

タバコはやっぱりむせて、咳き込みながら垂直に立ててみる。
お線香。
な～んてね。

また左腕に押しつけた。

でも怖がりのあたしは、押しつける前にちょっと火を消しちゃったから、そんなに痛くなかった。


タバコを吸い終わるころにはもうかなり明るくなっていて、人の影もちらほら見えた。

あーダメダメ。
遅刻以外の何物でもない


明るくなって初めて気付いたんだけど、
地上とあたしとの間に何本も電線があったんだ。




ぼーっと外の景色を眺めながら、ウイダーインゼリーを飲んで、部屋に帰った。


シケモクは外にポイ捨てしてみようかとも思ったけれど、結局部屋に持って帰ってきて、ベランダに放置していた昨日のシケモクも一緒に片付ける。





本当のこと言うとね、昨日眠くて途中で寝ちゃったんだよ。
遺書、書きかけのままで。

眠ることに必死だった、あたし、やっぱり、死ねなかった。


首吊るにしてもさ、
クローゼットはみんな中途半端な高さだし、
ドアノブは横からツルンって落ちて失敗したし。




死に装束にするはずだったお気に入りの白いスカートは、玄関横に置きっぱなし。

ベランダで、誰が読んでるかわからない日記を書く、バカなあたし、みかん、20歳。




結局弱虫だったのと、心配性がたたったのかな。

実家に残してきたものの始末をこうしてくれああしてくれって書いてたら、眠くてしょうがなくなってしまった、バカなあたし。

本当バカ。





あたしは、残ったタバコを吸うことがあるのなら、きっとまた左腕で火を消すだろう。

マンションの踊り場に立つときは、必ず地上を見下ろすだろう。


あの日、夢で見た光に手を伸ばしたように。




今日の通院まであと４時間半もある。

さーて、何しよっかな。
やっぱり眠ろうかな。





なんで今日に限って涙も出てこない。